「朝ドラ」初のロボット主人公誕生へ——町工場と女性研究者が紡ぐ未来の物語
2024年度後期のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)として注目を集めているのが『おむすび』に次いで放送予定の『あんぱん』です。NHKが発表したこの新作ドラマは、朝ドラ史上初めて“ロボット”が主人公になるという革新的な試みに挑みます。人間とロボットが共に成長し、互いを理解していく姿が描かれる『あんぱん』は、技術と人間性のはざまで揺れる現代日本に一石を投じる物語。注目を集めるキャストと制作陣の顔ぶれ、そしてモデルとなった実在の人物に込められた物語の背景をご紹介します。
物語の主人公は“あんぱん”という名前の、町工場に生まれたAI搭載のヒューマノイドロボット。人間の心を持ちたいと願う彼は、自身を開発した若き女性研究者の愛と葛藤を通して、“人間とはなにか”“心を持つとはどういうことか”を模索していきます。舞台は大阪の下町にある小さな町工場。急速に進化するAI社会の中で、日本の技術と人間の絆がどのように交わっていくのかが見どころとなっています。
話題のドラマながらも、形を持たない“心”を主人公のロボットにどう表現させるのかという点は、非常に難解な課題でした。その挑戦を引き受けたのが、朝ドラ初登場となる脚本家・守口悠一(もりぐち ゆういち)氏です。守口氏は、関西出身の気鋭の脚本家。大学では心理学と演劇を学び、舞台作品を多数手掛けたのち、テレビドラマ界に進出しました。彼は「感情の機微を、丁寧に、時に大胆に描く」ことに定評があり、人間ドラマとSFの融合という難しいテーマに果敢に挑みます。
守口氏は今回の作品について、「“心を持つ”ことは人間であっても非常に複雑な道のりです。感情、葛藤、共感、愛。これらをロボットがどう経験し、獲得していくか。ドラマを通じて、視聴者自身も自分の“心”に向き合うような作品にしたい」と語っています。
本作のヒロイン役を務めるのは、実力派若手女優・原菜乃華(はら なのか)さん。2003年生まれの彼女は、10代からモデルとして活動を始め、2021年に映画『すずめの戸締まり』で主演を務めて話題を呼びました。また、テレビドラマ『真犯人フラグ』や『ナイト・ドクター』などでも高い演技力を評価されています。朝ドラ初出演となる本作では、ロボット開発に情熱を注ぎつつ、機械と人間の間で揺れる繊細な心情を体現する役どころに挑戦します。
原さんは「ロボットが主人公ということで、最初は驚きとともに不安もありました。でも、この物語を通して“理解し合うこと”の本当の意味を深く考えるようになりました。人間にも、分かり合えることとそうでないことがある。その境界線がすごく興味深い」と話しています。
ロボット「あんぱん」の声と動きを担当するのは、舞台を中心に活躍する若手俳優・高杉真宙(たかすぎ まひろ)さん。1996年生まれの彼は、映画『十二人の死にたい子どもたち』『背中越しのチャンス』などに出演し、内面の細やかな表現力で知られています。高杉さんは「あんぱん」の声優としてだけでなく、モーションキャプチャーも実際に演じ、表情や体の動きからもキャラクターの感情を伝えるという重要な役どころを担います。
制作統括を務める落合将(おちあい まさる)プロデューサーは、これまでも数々の朝ドラで革新的な演出を手掛けてきた人物。特に『ひよっこ』や『カムカムエヴリバディ』で見せた温かくも挑戦的なストーリーテリングで視聴者を魅了しました。「“あんぱん”というロボットの目を通して、人間社会の矛盾や希望を描き出したい。観る人すべてに“自分はどうやって人と向き合っているだろうか”と問いかけられるような作品にしたいと考えています」と熱量あるコメントを寄せています。
また、本作には“実在の人物”が間接的にモデルとして関わっています。参考にされたのは、日本のAI・ロボット工学の第一人者である石黒浩(いしぐろ ひろし)教授。大阪大学基礎工学研究科に所属する石黒教授は、「人間そっくりなロボット(アンドロイド)」の研究で世界的に知られており、自身に酷似したロボット「ジェミノイド」も開発しています。今回のドラマ制作の背景では、教授の研究資料やインタビューも参考にされており、人間とロボット、双方の信頼や感情に及ぶ科学的哲学的探究からインスピレーションを受けています。
ドラマ『あんぱん』は、進化を続けるAI社会において、「人間らしさとは何か?」という本質的な問いを、町工場という温かくもリアルな日常の中で描いていきます。ロボットが“心”を学ぶプロセスは、私たちが自分自身の“心”を深く見つめ直すきっかけにもなるでしょう。
2025年春放送開始予定の『あんぱん』。人間とロボット、科学と感情、伝統と未来の交差点に立つこの新しい朝ドラが、あなたの朝の時間にどんな彩りを加えるのか——今から期待が高まります。