2024年6月24日、福井県で開催された伝統の剣道大会「全日本学生剣道選手権大会」において、近年注目を集める女子剣士・木村英友(きむら えいゆう)さんが鮮烈なインパクトを残しました。同志社大学法学部四回生である木村さんは、今回の大会で女子個人戦準優勝という結果を収め、剣道ファンのみならず各地の武道愛好者の注目を一身に集めました。
木村英友さんは、福岡県出身。中学から剣道に打ち込み、地元の名門・福岡県立筑紫台高校剣道部で頭角を現しました。高校時代には全国高等学校剣道大会(通称インターハイ)で団体・個人ともに上位に進出。その力強く、かつ駆け引きのある攻勢は「天才肌の左利き」と称され、既に高校時代から大学スカウトの目に留まっていました。
同志社大学進学後は、西日本学生剣道界でも屈指の左利きの選手として知られる存在に。大学剣道界では右手優位の選手が圧倒的に多い中、木村さんの左手主体の構えと斬新な技の選択は、他の選手にとって大きな脅威となっています。
受け身ではなく、攻め続ける姿勢で貫く彼女の剣道には、古流を大切にしつつも現代的な戦術が光ります。今回の大会においてもその戦法が功を奏し、準決勝では大本命の選手を破るなど、大きな話題を呼びました。
特に注目されたのは、その準決勝の一戦でした。相手は昨年の優勝者にして、全日本剣道連盟からも将来有望とされる逸材。これまでの戦績から見ても木村さんは“挑戦者”の立場でしたが、冷静な試合運びと鋭い面打ち、そして相手の呼吸を読む「間合いの妙」で堂々の勝利を収めました。
試合後のインタビューで彼女はこう語っています。
「左利きということで、相手のクセや動きを読み取りやすい場面もあります。ただ、それだけでは勝てません。自分の技、精神力、そして相手の動きに即応する柔軟さが必要。その全てが、ようやく少し形になってきた気がしました」
この言葉からも分かるように、木村さんはフィジカルな強さだけでなく、「剣道は心の戦い」という精神性をしっかりと体現しているのです。
また、木村さんのもうひとつの特徴は学生でありながら法学部に在籍し、学業との両立にも注力している点。同志社大学法学部は、関西屈指の難関私立であり、剣道道場での鍛錬と授業、さらにはゼミ活動や司法試験対策など、学生生活は極めて多忙です。それでも彼女は「剣道で培った集中力と継続力が、勉学にも活かされています」と語ります。
剣道と法律――一見すると接点が薄いように見えますが、どちらも根底には「人を思いやる精神性」や「正義感」、「自らを律する姿勢」が問われる分野です。剣道における“礼に始まり礼に終わる”という哲学と、法の世界に求められる倫理性は、木村さんの生き方を形成する軸となっているようです。
現在、木村さんは大学生活の集大成として、今年秋に開催予定の第71回全日本女子剣道選手権への出場を視野に入れています。この大会は社会人や警察、教員、実業団といった、あらゆるバックボーンを持つ“剣道エリート”が集う舞台。その中で、大学生という立場ながら挑戦しようとする姿勢には、彼女なりの強い覚悟が感じられます。
「大学剣道では全力を尽くしました。でも、私はまだ“道の途中”にいます。剣道を通じて、いろんなことをまだ学びたいし、伝えたい。次は社会人として、より多様な経験を積みながら、日本の剣道文化を次世代に繋げていきたいと思っています」
そんな風に話す木村さんは、今年中には某法務省系のインターンシップも控えており、将来は「人の権利を守れる職業に就きたい」とも話しています。剣道を通して鍛えた精神と、法律の知識、その両軸を携え、彼女は新たなフィールドに歩みを進めようとしています。
さらに、注目が集まる背景には、近年の女子剣道・武道界の地殻変動ともいえる潮流があります。長らく男子中心だった武道の世界でも、女子剣士の活躍が年々顕著になっており、2024年の時点では全国レベルの大会でも女子の高い技術と精神性が話題に。同時にメディア露出やスポーツ推薦での進学など、かつてに比べて道が大きく開かれてきています。
その最前列を走っているのが、今回準優勝した木村英友さんのような選手たちであり、“競技者”と“学び手”という二刀流を貫く姿は大きな希望と勇気を与えてくれる存在です。
最後に、彼女の恩師である同志社大学剣道部監督・山中雅人氏(範士八段)は、こう語ります。
「英友は誰よりも稽古をする。1本の中での工夫と執念が違う。彼女のこれまでの積み重ねが、今ようやく花開こうとしている」
剣道という伝統武道の世界で、そしてこれから志す法の世界で、一人の女性がどれだけの風を起こしてゆくのか。木村英友さんのこれからの歩みに、我々はぜひ注目していきたいと思います。